大手損保のカルテル問題に潜む「代理店」の暗躍独禁法違反の常態化で問われる損保の「常識」
東京海上日動火災保険など大手損害保険各社において大手私鉄グループ企業との共同保険取引で独占禁止法違反となる「カルテル」を結んでいる疑いがあることが分かり、損保の経営を監督する金融庁が6月に入つてから保険業法に基づく報告徴求命令を各社に出しており、今後は取引の実態解明を進める方針であることが報道機関より配信されました。
大手損害保険4社による保険料カルテル問題は底なしの様相を呈してきており、東急グループをめぐる保険料カルテル事案が発覚したことを受けて、大手損保4社(東京海上日動火災保険、損害保険ジャパン、三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険)は現在、独占禁止法の違反行為にあたるような事案がないか、内部調査を進めているそうです。
大手損害保険4社による私鉄大手・東急グループとの取引をめぐっては公正取引委員会が調査に乗り出していることが分かったのですが、損保業界における取引慣行の闇に対して「市場の番人」によるメスがついに入ることになるのかが注目されているようです。
その取引とは複数の損保が共同で1つの保険契約を引き受ける「共同保険」であり、東京海上日動火災保険、損害保険ジャパン、三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険の大手4社が価格カルテルを結んだために本来なら安く抑えられたはずの保険料が東急側に不当に高く支払わなければならなかったという疑惑とのことのようです。
大手損保のカルテル問題に潜む「代理店」の暗躍独禁法違反の常態化で問われる損保の「常識」
( 2023/08/03 5:00 東洋経済記者:中村 正毅 )
大手損害保険各社による保険料カルテル問題が、火の手が収まらず広がり続けるという異常事態に陥っている。
大手損保4社に疑義案件の全報告を求める金融庁
金融庁は5月以降、大手4社(東京海上日動火災保険、損害保険ジャパン、三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険)に対して、保険業法に基づく報告徴求命令を出し、共同保険(複数の損保が共同で1つの保険契約を引き受ける保険)で価格カルテルの疑義が見つかれば、漏れなく報告するよう求めている。
私鉄大手・東急グループを手始めに、疑義案件は京成電鉄グループ、首都圏新都市鉄道(つくばエクスプレス)、千葉都市モノレール、成田国際空港、仙台国際空港など運輸業界のほか、自動車、鉄鋼、石油、小売り業界の大手企業にも及び始めた。
損保業界としてはこの際、ウミを出し切るしかないが、問題なのはカルテルなどの行為が「慣習」として常態化しており、独占禁止法に違反しているという意識が現場の社員において薄いということだ。
つまり、出すべきウミを、そもそも認識しきれていないのだ。
意識の低さの背景にあるのが保険代理店の存在だ。
大企業と取引する共同保険は、基本的にその大企業の傘下にある保険代理店が仲介する。
そのため、損保が代理店の担当者を通じて他社の保険料を聞き、価格水準が自分たちだけ乖離しないようにするといった行為が、「常態化していたようだ」(金融庁幹部)。
疑義案件は膨大な数に上るおそれがある
損保が厳格に調査すれば、金融庁へ報告すべき疑義案件は数十件ではとどまらず、膨大な数に上るおそれがある。
さらに言えば、代理店自体が保険料調整を主導するケースも少なくない。複数の関係者によると、成田空港の企業財産包括保険(火災保険、幹事会社:三井住友海上)がまさに典型的な事例だという。
昨秋の契約更改に向けた入札にあたって代理店が、三井住友海上、損保ジャパン、東京海上の3社と連絡を取り合い、他社が提示しようとしている保険料をそれぞれに伝え、入札価格が乖離し混乱しないように調整していたとみられる。
大手3社の側も、代理店が保険料調整を主導していることを十分に理解しながら事前協議に乗っかっていたわけだ。
入札の結果、この契約は前回よりも保険料が上昇したもようだ。
保険料の値上げをなぜか代理店が主導
保険料が値上げになるような価格調整を、大企業傘下の代理店がするはずがないと思うかもしれないが、それは違う。
保険料が上がれば代理店は保険会社から受け取る手数料が増え、増収につながる。
代理店が保険料の値上げを主導する理由は、まさにそこにある。
こうした価格調整は独占禁止法に違反する行為だが、損保側の担当者としても前任者からの引き継ぎで、契約更改における入札の流れはそういうものだと説明されれば慣習は変わることがない。
ひいては「グレーかもしれないがクロではないはず」などと、誤って認識する社員が出てきてしまうのだ。
業界特有のありえない「常識」がまかり通ってきた中で、今後、損保各社は独禁法違反事案の徹底的な調査に加えて、社員の抜本的な意識改革が不可欠となる。
大手損保4社が企業向け保険でカルテルの疑い取引実態の解明に向けて金融庁が報告命令
( 2023/06/19 15:00 東洋経済記者:中村 正毅 )
東京海上日動火災保険など大手損害保険各社が、大手私鉄グループ企業との共同保険取引で、独占禁止法違反となる「カルテル」を結んでいる疑いがあることが分かった。
損保の経営を監督する金融庁は、6月に入り、保険業法に基づく報告徴求命令を各社に出しており、今後、取引の実態解明を進める方針だ。
東京海上が主導して、保険料の水準を設定か
報告命令を受けたのは、東京海上のほか損害保険ジャパン、三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険の大手4社。
複数の関係者によると、東京海上が主導する形で、各社が連絡を取り合いながら、火災保険などの保険料を同じような水準に設定し、大手私鉄グループに提示していたようだ。
同契約はボリュームが大きく、1社単独で引き受けるのはリスクが高いため、各社が契約を分担して引き受ける共同保険方式を採っている。
本来であれば、損保側は少しでも契約シェアを高めようと、保険料の値下げ競争などを仕掛けるはずだ。
ところが、問題となっている大手私鉄グループのケースでは、契約シェアの大きい東京海上を中心に、値下げ競争に陥ることを回避しようという動きが広がり、カルテルにつながっていったとみられる。
そもそも損保業界は、大手4社が正味収入保険料で9割超のシェアを持つ寡占状態にある。
また、中小損保では大企業との取引のリスクを抱えきれないことが多いため、大手損保4社が契約を引き受けざるを得ない面もある。
独禁法違反の「優越的地位の濫用」に当たる可能性も
その実情を逆手に取り、さらに裏で価格カルテルも結びながら、「これより安い保険料では、契約の引き受け手がいない」といった契約交渉をしていたのであれば、独占禁止法違反となる「優越的地位の濫用」に当たる可能性もある。
金融庁はそうした観点も含め、問題となった大手私鉄グループとの取引以外にも疑義のある事案がほかにないか、徹底した調査を大手4社に求めている。
損保のカルテルをめぐっては、1994年に公正取引委員会から警告を受けた過去がある。
損保の業界団体が、自動車の整備業者に支払う修理費の「標準対応単価」を設定し、各社がそれをほぼ一律で適用していた。
その業界慣行が、独占禁止法の禁じるカルテルの疑いがあるとして警告を受けたのだ。
今後の調査で、カルテルや優越的地位濫用の疑いがある事例が相次いで見つかるようなことになれば、金融庁だけでなく公取委も乗り出し、大手損保の構造的な業界慣行の「闇」にメスが入ることになるかもしれない。
大手損保が京成電鉄向けなどでもカルテルの疑い独禁法違反が続発する共同保険の底知れぬ闇
(:2023/07/31 0:00東洋経済記者:中村正毅 )
大手損害保険4社による保険料カルテル問題が、底なしの様相を呈してきた。
東急グループをめぐる保険料カルテル事案が発覚したことを受けて、大手損保4社(東京海上日動火災保険、損害保険ジャパン、三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険)は現在、独占禁止法の違反行為にあたるような事案がないか、内部調査を進めている。
京成電鉄と千葉モノレール向けの共同保険に疑義
その中で、新たな疑義として浮上しているのが、大手私鉄・京成電鉄グループ向けと、千葉市の第三セクター、千葉都市モノレール向けの共同保険(複数の損保が共同で1つの保険契約を引き受ける保険)だ。
疑義の対象となっているのは、火災保険にあたる「企業財産包括保険」と、損害賠償費用を補償する「賠償責任保険」の2つである。
前者の幹事会社は三井住友海上火災保険、後者の幹事会社は損害保険ジャパンが務めている。
それぞれの保険が契約更改時期を迎え、京成電鉄グループと千葉モノレールが2022年秋以降に見積もりを求める過程で、大手損保4社の一部において「(提示する)保険料水準を事前にすり合わせていた疑いがある」(大手損保幹部)という。
談合した結果、不適正な保険料のまま契約に至った案件があるとみられ、その場合は公正取引委員会による課徴金処分の対象になる。
保険料カルテルをめぐっては、金融庁が5月から6月にかけて損保各社に、保険業法に基づく報告徴求命令を出している。
その中では、少しでも疑いのある案件が見つかった場合は、漏れなく金融庁へ報告するよう指示しており、今後も疑義案件が相次ぐ可能性がある。
今後の焦点は企業グループ内の保険代理店
カルテル行為が損保業界でまん延しているかのような状況にあって、今後の大きな焦点になるのが企業代理店(企業がグループ内に抱えている保険代理店)との取引のあり方だ。
そもそも大企業の多くは、代理店に自社グループ全体の保険契約の実務を担わせている。
その代理店は、親会社(=大企業)のコストカットの意向を背に、保険料をできるだけ安く抑えることを目指すように思えるが、実はそう単純ではない。
保険料が上がれば、代理店が保険会社から得られる手数料も増えるため、高い保険料のほうが代理店の業績アップにつながる側面があるのだ。
また企業グループの中で、保険代理店だけは「独立採算」になっており、親会社のコストカット意向の影響があまり及ばないところが少なくないとされる。
そうした状況で、損保各社が提示する保険料の水準を、「代理店が中心となって差配したり、他社の提示保険料を漏らして幹事保険会社を優遇してみたり、ということが往々にしてある」と大手損保の幹部は声を潜める。
代理店との取引を損保はどう適正化していくか
そうしたいびつな“商慣習”が、ときに損保と代理店との間でトラブルを招き、不問だったはずのカルテル行為が内部通報などによって表沙汰になってしまったようにも映る。
損保業界は収入保険料の9割が代理店経由だ。
中古車販売大手ビッグモーターによる保険金不正請求問題においても、損保と保険代理店としてのビッグモーターとの関係性や癒着に注目が集まっている。
切っても切れない関係にある代理店との取引を、未来志向でどう見直し適正化していくか。
一連の問題によって突きつけられた課題は、損保にとって極めて重いはずだ。
保険料カルテルで露呈した「損保ジャパンの矛盾」大手損保4社が賠償責任保険でも独禁法違反
( 2023/07/01 5:45東洋経済記者:中村正毅 )
私鉄大手・東急グループをめぐる大手損害保険会社の価格カルテル問題で、損害保険ジャパンの矛盾が露呈した。
火災保険のみならず賠償責任保険でもカルテル
東急グループと取引のある大手損保4社のうち3社が、火災保険のみならず賠償責任保険においても価格カルテルを結んでいたと金融庁に報告していた。
賠償責任保険とは、自社の施設や工事などで事故が発生した場合に、その損害賠償費用を補償する仕組みの商品だ。
東急グループ向けの賠償責任保険では損保ジャパンが幹事会社を務めている。
カルテル問題をめぐっては、金融庁が大手4社に対して保険業法に基づく報告徴求命令を出しており、2023年6月23日までに各社が経緯や調査の状況などについて報告している。
その報告の中で、東京海上日動火災保険、三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険の3社は、東急グループ向けの火災保険と賠償責任保険について保険料の調整行為(価格カルテル)があったとしている。
6月30日の日本損害保険協会の記者会見においても、協会長を務めるあいおいの新納啓介社長は「(個社として)賠償責任保険についても、保険料調整を実施してしまっているという認識だ」と述べている。
その一方で、損保ジャパンは、契約更改における実務上の「やり取りは各社の担当者間であったものの、(現場の営業担当者からは)提示する具体的な保険料水準について話し合ったとは聞いていない」としており、金融庁にもその旨を報告したようだ。
つまり、幹事会社である損保ジャパンだけ言い分が食い違ってしまっているわけだ。
罰金処分が科される可能性も
主張が異なることについて、損保ジャパンは「保険料の調整行為については現在調査中」としている。もし意図的に隠して金融庁に報告していたとなれば、法人に対して保険業法(321条1項2号)に基づく罰金処分が科される可能性がある。
現在、大手4社はカルテル問題について、調査委員会を設置して同種の事案がほかにないかなど調べを進めている。業界としてウミを出し切れるのか。
金融庁への報告段階から主張の食い違いが露呈するようでは、先が思いやられる。
公取委が調査!東急への「大手損保カルテル行為」損保4社がひた隠しにするもう一つの違反事案
( 2023/06/26 5:50東洋経済記者:中村正毅 )
大手損害保険4社による、私鉄大手・東急グループとの取引をめぐって、公正取引委員会が調査に乗り出していることが分かった。
損保業界における取引慣行の闇に対して、「市場の番人」によるメスがついに入ることになるのか。
その取引とは、複数の損保が共同で1つの保険契約を引き受ける「共同保険」だ。
東京海上日動火災保険、損害保険ジャパン、三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険の大手4社が、価格カルテルを結んだために、本来なら安く抑えられたはずの保険料を、東急側が不当に高く支払わなければならなかったという疑惑だ。
「現時点で本件以外は認識せず」と東京海上
損保の経営を監督する金融庁はこれら4社に対して、保険業法に基づく報告徴求命令をすでに出している。
それを受けて6月20日に東京海上日動が、同23日にはほか3社が、カルテル行為について認め、再発防止に努めるという旨の文書を公表した。
「現時点では本件以外での同種の事案は認識しておりません」――。
カルテルを実質的に主導していたことを認めた東京海上日動は、公表文書にそう記した。
あくまで一社員が引き起こした特異な事例として整理し、早期の幕引きを図りたいという思惑が色濃くにじむ。
そもそも今回の事案は、2022年12月に東急側が大手4社による火災保険(企業財産包括保険)の保険料カルテルに疑いを持ち、東京海上の営業部門に問いただしたことがきっかけで発覚している。
東京海上日動は、東急の社外監査役に、自社の元社長を歴代にわたって送り込んできた。現在も東京海上日動の隅修三・元社長が、東急の社外監査役に就いている。それだけに衝撃は大きかった。
カルテル発覚後には、東京海上日動の広瀬伸一社長が東急側に頭を下げる事態にまで発展しており、入札を2度にわたってやり直す羽目にもなった。
最終的に東急側は、当初より大幅に安い火災保険料で契約を更改している。
公取委によると、入札をやり直したことによって、カルテル行為など独占禁止法の「違反行為にかかる売り上げがないのであれば、課徴金がかからないことが想定できる」(公取委の小林渉事務総長)という。
東京海上日動が公表文書の中で「不当な保険料で引き受けに至ることはなかった」と何度も記しているのは、課徴金処分に至らない状態へ自浄作用を働かせることができたとアピールしたかったからだろう。
そうして東京海上日動など4社は事態の鎮静化を図ろうとした。
だが、公取委は厳しい姿勢を変えず、調査に乗り出すことになった。
なぜか。
それは課徴金処分の対象となり得るカルテル行為がほかにも存在している疑いがあるからだ。
損保ジャパンが幹事の取り引きに疑い
その取引とは、東急グループ向けの賠償責任保険だ。自社の施設や工事などで事故が発生した場合にその損害賠償費用を補償する仕組みの保険で、幹事会社は損保ジャパンが務めている。
公取委など複数の関係者によると、その取引においても保険料の提示水準を4社で調整したような形跡があるにもかかわらず、東急側は疑念を持たず、契約に至ってしまっているという。
そうであれば、独禁法の違反行為による売り上げとして課徴金処分の対象となる。
さらに言えば、幹事会社が変わっても同様に価格カルテルが結ばれているのであれば、もはや個社の一社員が引き起こした特異な事例として片付けるのは無理がある。
企業向けの共同保険分野で、違反行為が広くまん延している可能性があるのだ。
損保業界に広がる底知れぬ闇にどこまで迫れるか。
公取委、金融庁ともに緊張感が足元で一気に高まっている。

大手損害保険4社による保険料カルテル問題は底なしの様相を呈してきており、東急グループをめぐる保険料カルテル事案が発覚したことを受けて、大手損保4社(東京海上日動火災保険、損害保険ジャパン、三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険)は現在、独占禁止法の違反行為にあたるような事案がないか、内部調査を進めているそうです。
大手損害保険4社による私鉄大手・東急グループとの取引をめぐっては公正取引委員会が調査に乗り出していることが分かったのですが、損保業界における取引慣行の闇に対して「市場の番人」によるメスがついに入ることになるのかが注目されているようです。
その取引とは複数の損保が共同で1つの保険契約を引き受ける「共同保険」であり、東京海上日動火災保険、損害保険ジャパン、三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険の大手4社が価格カルテルを結んだために本来なら安く抑えられたはずの保険料が東急側に不当に高く支払わなければならなかったという疑惑とのことのようです。
大手損保のカルテル問題に潜む「代理店」の暗躍独禁法違反の常態化で問われる損保の「常識」
( 2023/08/03 5:00 東洋経済記者:中村 正毅 )
大手損害保険各社による保険料カルテル問題が、火の手が収まらず広がり続けるという異常事態に陥っている。
大手損保4社に疑義案件の全報告を求める金融庁
金融庁は5月以降、大手4社(東京海上日動火災保険、損害保険ジャパン、三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険)に対して、保険業法に基づく報告徴求命令を出し、共同保険(複数の損保が共同で1つの保険契約を引き受ける保険)で価格カルテルの疑義が見つかれば、漏れなく報告するよう求めている。
私鉄大手・東急グループを手始めに、疑義案件は京成電鉄グループ、首都圏新都市鉄道(つくばエクスプレス)、千葉都市モノレール、成田国際空港、仙台国際空港など運輸業界のほか、自動車、鉄鋼、石油、小売り業界の大手企業にも及び始めた。
損保業界としてはこの際、ウミを出し切るしかないが、問題なのはカルテルなどの行為が「慣習」として常態化しており、独占禁止法に違反しているという意識が現場の社員において薄いということだ。
つまり、出すべきウミを、そもそも認識しきれていないのだ。
意識の低さの背景にあるのが保険代理店の存在だ。
大企業と取引する共同保険は、基本的にその大企業の傘下にある保険代理店が仲介する。
そのため、損保が代理店の担当者を通じて他社の保険料を聞き、価格水準が自分たちだけ乖離しないようにするといった行為が、「常態化していたようだ」(金融庁幹部)。
疑義案件は膨大な数に上るおそれがある
損保が厳格に調査すれば、金融庁へ報告すべき疑義案件は数十件ではとどまらず、膨大な数に上るおそれがある。
さらに言えば、代理店自体が保険料調整を主導するケースも少なくない。複数の関係者によると、成田空港の企業財産包括保険(火災保険、幹事会社:三井住友海上)がまさに典型的な事例だという。
昨秋の契約更改に向けた入札にあたって代理店が、三井住友海上、損保ジャパン、東京海上の3社と連絡を取り合い、他社が提示しようとしている保険料をそれぞれに伝え、入札価格が乖離し混乱しないように調整していたとみられる。
大手3社の側も、代理店が保険料調整を主導していることを十分に理解しながら事前協議に乗っかっていたわけだ。
入札の結果、この契約は前回よりも保険料が上昇したもようだ。
保険料の値上げをなぜか代理店が主導
保険料が値上げになるような価格調整を、大企業傘下の代理店がするはずがないと思うかもしれないが、それは違う。
保険料が上がれば代理店は保険会社から受け取る手数料が増え、増収につながる。
代理店が保険料の値上げを主導する理由は、まさにそこにある。
こうした価格調整は独占禁止法に違反する行為だが、損保側の担当者としても前任者からの引き継ぎで、契約更改における入札の流れはそういうものだと説明されれば慣習は変わることがない。
ひいては「グレーかもしれないがクロではないはず」などと、誤って認識する社員が出てきてしまうのだ。
業界特有のありえない「常識」がまかり通ってきた中で、今後、損保各社は独禁法違反事案の徹底的な調査に加えて、社員の抜本的な意識改革が不可欠となる。
大手損保4社が企業向け保険でカルテルの疑い取引実態の解明に向けて金融庁が報告命令
( 2023/06/19 15:00 東洋経済記者:中村 正毅 )
東京海上日動火災保険など大手損害保険各社が、大手私鉄グループ企業との共同保険取引で、独占禁止法違反となる「カルテル」を結んでいる疑いがあることが分かった。
損保の経営を監督する金融庁は、6月に入り、保険業法に基づく報告徴求命令を各社に出しており、今後、取引の実態解明を進める方針だ。
東京海上が主導して、保険料の水準を設定か
報告命令を受けたのは、東京海上のほか損害保険ジャパン、三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険の大手4社。
複数の関係者によると、東京海上が主導する形で、各社が連絡を取り合いながら、火災保険などの保険料を同じような水準に設定し、大手私鉄グループに提示していたようだ。
同契約はボリュームが大きく、1社単独で引き受けるのはリスクが高いため、各社が契約を分担して引き受ける共同保険方式を採っている。
本来であれば、損保側は少しでも契約シェアを高めようと、保険料の値下げ競争などを仕掛けるはずだ。
ところが、問題となっている大手私鉄グループのケースでは、契約シェアの大きい東京海上を中心に、値下げ競争に陥ることを回避しようという動きが広がり、カルテルにつながっていったとみられる。
そもそも損保業界は、大手4社が正味収入保険料で9割超のシェアを持つ寡占状態にある。
また、中小損保では大企業との取引のリスクを抱えきれないことが多いため、大手損保4社が契約を引き受けざるを得ない面もある。
独禁法違反の「優越的地位の濫用」に当たる可能性も
その実情を逆手に取り、さらに裏で価格カルテルも結びながら、「これより安い保険料では、契約の引き受け手がいない」といった契約交渉をしていたのであれば、独占禁止法違反となる「優越的地位の濫用」に当たる可能性もある。
金融庁はそうした観点も含め、問題となった大手私鉄グループとの取引以外にも疑義のある事案がほかにないか、徹底した調査を大手4社に求めている。
損保のカルテルをめぐっては、1994年に公正取引委員会から警告を受けた過去がある。
損保の業界団体が、自動車の整備業者に支払う修理費の「標準対応単価」を設定し、各社がそれをほぼ一律で適用していた。
その業界慣行が、独占禁止法の禁じるカルテルの疑いがあるとして警告を受けたのだ。
今後の調査で、カルテルや優越的地位濫用の疑いがある事例が相次いで見つかるようなことになれば、金融庁だけでなく公取委も乗り出し、大手損保の構造的な業界慣行の「闇」にメスが入ることになるかもしれない。
大手損保が京成電鉄向けなどでもカルテルの疑い独禁法違反が続発する共同保険の底知れぬ闇
(:2023/07/31 0:00東洋経済記者:中村正毅 )
大手損害保険4社による保険料カルテル問題が、底なしの様相を呈してきた。
東急グループをめぐる保険料カルテル事案が発覚したことを受けて、大手損保4社(東京海上日動火災保険、損害保険ジャパン、三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険)は現在、独占禁止法の違反行為にあたるような事案がないか、内部調査を進めている。
京成電鉄と千葉モノレール向けの共同保険に疑義
その中で、新たな疑義として浮上しているのが、大手私鉄・京成電鉄グループ向けと、千葉市の第三セクター、千葉都市モノレール向けの共同保険(複数の損保が共同で1つの保険契約を引き受ける保険)だ。
疑義の対象となっているのは、火災保険にあたる「企業財産包括保険」と、損害賠償費用を補償する「賠償責任保険」の2つである。
前者の幹事会社は三井住友海上火災保険、後者の幹事会社は損害保険ジャパンが務めている。
それぞれの保険が契約更改時期を迎え、京成電鉄グループと千葉モノレールが2022年秋以降に見積もりを求める過程で、大手損保4社の一部において「(提示する)保険料水準を事前にすり合わせていた疑いがある」(大手損保幹部)という。
談合した結果、不適正な保険料のまま契約に至った案件があるとみられ、その場合は公正取引委員会による課徴金処分の対象になる。
保険料カルテルをめぐっては、金融庁が5月から6月にかけて損保各社に、保険業法に基づく報告徴求命令を出している。
その中では、少しでも疑いのある案件が見つかった場合は、漏れなく金融庁へ報告するよう指示しており、今後も疑義案件が相次ぐ可能性がある。
今後の焦点は企業グループ内の保険代理店
カルテル行為が損保業界でまん延しているかのような状況にあって、今後の大きな焦点になるのが企業代理店(企業がグループ内に抱えている保険代理店)との取引のあり方だ。
そもそも大企業の多くは、代理店に自社グループ全体の保険契約の実務を担わせている。
その代理店は、親会社(=大企業)のコストカットの意向を背に、保険料をできるだけ安く抑えることを目指すように思えるが、実はそう単純ではない。
保険料が上がれば、代理店が保険会社から得られる手数料も増えるため、高い保険料のほうが代理店の業績アップにつながる側面があるのだ。
また企業グループの中で、保険代理店だけは「独立採算」になっており、親会社のコストカット意向の影響があまり及ばないところが少なくないとされる。
そうした状況で、損保各社が提示する保険料の水準を、「代理店が中心となって差配したり、他社の提示保険料を漏らして幹事保険会社を優遇してみたり、ということが往々にしてある」と大手損保の幹部は声を潜める。
代理店との取引を損保はどう適正化していくか
そうしたいびつな“商慣習”が、ときに損保と代理店との間でトラブルを招き、不問だったはずのカルテル行為が内部通報などによって表沙汰になってしまったようにも映る。
損保業界は収入保険料の9割が代理店経由だ。
中古車販売大手ビッグモーターによる保険金不正請求問題においても、損保と保険代理店としてのビッグモーターとの関係性や癒着に注目が集まっている。
切っても切れない関係にある代理店との取引を、未来志向でどう見直し適正化していくか。
一連の問題によって突きつけられた課題は、損保にとって極めて重いはずだ。
保険料カルテルで露呈した「損保ジャパンの矛盾」大手損保4社が賠償責任保険でも独禁法違反
( 2023/07/01 5:45東洋経済記者:中村正毅 )
私鉄大手・東急グループをめぐる大手損害保険会社の価格カルテル問題で、損害保険ジャパンの矛盾が露呈した。
火災保険のみならず賠償責任保険でもカルテル
東急グループと取引のある大手損保4社のうち3社が、火災保険のみならず賠償責任保険においても価格カルテルを結んでいたと金融庁に報告していた。
賠償責任保険とは、自社の施設や工事などで事故が発生した場合に、その損害賠償費用を補償する仕組みの商品だ。
東急グループ向けの賠償責任保険では損保ジャパンが幹事会社を務めている。
カルテル問題をめぐっては、金融庁が大手4社に対して保険業法に基づく報告徴求命令を出しており、2023年6月23日までに各社が経緯や調査の状況などについて報告している。
その報告の中で、東京海上日動火災保険、三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険の3社は、東急グループ向けの火災保険と賠償責任保険について保険料の調整行為(価格カルテル)があったとしている。
6月30日の日本損害保険協会の記者会見においても、協会長を務めるあいおいの新納啓介社長は「(個社として)賠償責任保険についても、保険料調整を実施してしまっているという認識だ」と述べている。
その一方で、損保ジャパンは、契約更改における実務上の「やり取りは各社の担当者間であったものの、(現場の営業担当者からは)提示する具体的な保険料水準について話し合ったとは聞いていない」としており、金融庁にもその旨を報告したようだ。
つまり、幹事会社である損保ジャパンだけ言い分が食い違ってしまっているわけだ。
罰金処分が科される可能性も
主張が異なることについて、損保ジャパンは「保険料の調整行為については現在調査中」としている。もし意図的に隠して金融庁に報告していたとなれば、法人に対して保険業法(321条1項2号)に基づく罰金処分が科される可能性がある。
現在、大手4社はカルテル問題について、調査委員会を設置して同種の事案がほかにないかなど調べを進めている。業界としてウミを出し切れるのか。
金融庁への報告段階から主張の食い違いが露呈するようでは、先が思いやられる。
公取委が調査!東急への「大手損保カルテル行為」損保4社がひた隠しにするもう一つの違反事案
( 2023/06/26 5:50東洋経済記者:中村正毅 )
大手損害保険4社による、私鉄大手・東急グループとの取引をめぐって、公正取引委員会が調査に乗り出していることが分かった。
損保業界における取引慣行の闇に対して、「市場の番人」によるメスがついに入ることになるのか。
その取引とは、複数の損保が共同で1つの保険契約を引き受ける「共同保険」だ。
東京海上日動火災保険、損害保険ジャパン、三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険の大手4社が、価格カルテルを結んだために、本来なら安く抑えられたはずの保険料を、東急側が不当に高く支払わなければならなかったという疑惑だ。
「現時点で本件以外は認識せず」と東京海上
損保の経営を監督する金融庁はこれら4社に対して、保険業法に基づく報告徴求命令をすでに出している。
それを受けて6月20日に東京海上日動が、同23日にはほか3社が、カルテル行為について認め、再発防止に努めるという旨の文書を公表した。
「現時点では本件以外での同種の事案は認識しておりません」――。
カルテルを実質的に主導していたことを認めた東京海上日動は、公表文書にそう記した。
あくまで一社員が引き起こした特異な事例として整理し、早期の幕引きを図りたいという思惑が色濃くにじむ。
そもそも今回の事案は、2022年12月に東急側が大手4社による火災保険(企業財産包括保険)の保険料カルテルに疑いを持ち、東京海上の営業部門に問いただしたことがきっかけで発覚している。
東京海上日動は、東急の社外監査役に、自社の元社長を歴代にわたって送り込んできた。現在も東京海上日動の隅修三・元社長が、東急の社外監査役に就いている。それだけに衝撃は大きかった。
カルテル発覚後には、東京海上日動の広瀬伸一社長が東急側に頭を下げる事態にまで発展しており、入札を2度にわたってやり直す羽目にもなった。
最終的に東急側は、当初より大幅に安い火災保険料で契約を更改している。
公取委によると、入札をやり直したことによって、カルテル行為など独占禁止法の「違反行為にかかる売り上げがないのであれば、課徴金がかからないことが想定できる」(公取委の小林渉事務総長)という。
東京海上日動が公表文書の中で「不当な保険料で引き受けに至ることはなかった」と何度も記しているのは、課徴金処分に至らない状態へ自浄作用を働かせることができたとアピールしたかったからだろう。
そうして東京海上日動など4社は事態の鎮静化を図ろうとした。
だが、公取委は厳しい姿勢を変えず、調査に乗り出すことになった。
なぜか。
それは課徴金処分の対象となり得るカルテル行為がほかにも存在している疑いがあるからだ。
損保ジャパンが幹事の取り引きに疑い
その取引とは、東急グループ向けの賠償責任保険だ。自社の施設や工事などで事故が発生した場合にその損害賠償費用を補償する仕組みの保険で、幹事会社は損保ジャパンが務めている。
公取委など複数の関係者によると、その取引においても保険料の提示水準を4社で調整したような形跡があるにもかかわらず、東急側は疑念を持たず、契約に至ってしまっているという。
そうであれば、独禁法の違反行為による売り上げとして課徴金処分の対象となる。
さらに言えば、幹事会社が変わっても同様に価格カルテルが結ばれているのであれば、もはや個社の一社員が引き起こした特異な事例として片付けるのは無理がある。
企業向けの共同保険分野で、違反行為が広くまん延している可能性があるのだ。
損保業界に広がる底知れぬ闇にどこまで迫れるか。
公取委、金融庁ともに緊張感が足元で一気に高まっている。
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