嵐迫る保険業界「危機の教訓生かせ」 米プルデンシャルCEO金融直言
米保険大手プルデンシャル・ファイナンシャルのチャールズ・ラウリー最高経営責任者(CEO)は日本経済新聞の取材に対して、市場動向に左右されにくい経営体質に向けてテクノロジー投資を加速する考えを示し、人工知能(AI)による新たな顧客獲得を進めていることから世界の金融業界が波乱への備えを強化していることが報道機関より配信されました。
今回は2008年の金融危機の教訓が「非常に役に立つ」として、大半の金融機関は強固な財務体質により「嵐を乗り切れる」と述べています。
嵐迫る保険業界「危機の教訓生かせ」 米プルデンシャルCEO金融直言
( 日本経済新聞 2022年11月1日 5:00 )
世界の金融業界が波乱への備えを強化している。
米保険大手プルデンシャル・ファイナンシャルのチャールズ・ラウリー最高経営責任者(CEO)は日本経済新聞の取材に対し、市場動向に左右されにくい経営体質に向け、テクノロジー投資を加速する考えを示した。
人工知能(AI)による新たな顧客獲得などを進める。
今回は2008年の金融危機の教訓が「非常に役に立つ」として、大半の金融機関は強固な財務体質により「嵐を乗り切れる」と述べた。
(聞き手は宮本岳則)
――米連邦準備理事会(FRB)の利上げと景気後退懸念が、不安定な金融相場につながっています。米国は不況入りを避けられると考えていますか。
「FRBは景気後退を回避しようとしている。同時に彼らの第一目標はインフレ率を引き下げることであり、それが実現するまで金利を上げ続けるということを明確にした。できる限り景気後退を避けようとするだろうが、それは難しいと言わざるを得ない」
――保険業界に与える影響をどうみていますか。
「金利上昇と(企業の信用リスクに応じて社債の発行金利に上乗せされる)クレジットスプレッドの拡大、株式相場の下落という3つが同時に起きるのは異常だ。もっとも、金利高とスプレッド拡大は、より良い利回りで運用できる環境をもたらし、保険業界にとって、いずれ収益拡大の追い風となる」
――スイスの一部金融機関で経営不安説が浮上しました。
「経済の不確実性と地政学的なリスクは、金融業界に大きなボラティリティー(変動率)を引き起こす。とはいえ大半の企業は嵐を乗り切るのに十分な非常に強い財務状態にある。金融危機の際に学んだ多くの教訓が、非常に役立つだろうし、すでに教訓は生かされている」
――プルデンシャルは嵐をどう乗り切りますか。
「私は2018年末にCEOに就任した際、市況に左右されにくく、高い成長を続けられる企業にしなければならないと認識した。そのためには3つのことをなし遂げなければならない。まず安定した収益基盤を作り上げる。次に事業と商品の構成を見直し、コスト構造を変革する」
「最後に事業への投資と株主への還元のバランスをとることだ。成長事業や市場に投資を続けるほか、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)時に広がったテクノロジーの活用で、新たな顧客体験を提供する。変革の真っ最中だ」
――競合する米保険会社は生命保険事業を外部に切り出したり、縮小したりしています。プルデンシャルも縮小を検討しますか。
「過去10年間続いた低金利の影響で、伝統的な生命保険・年金提供業者は、リスクが低く、資本をあまり使わない戦略にシフトしてきた。国内外の保険会社の多くが、米国の生命保険・年金事業のすべて、または少なくとも一部を売却した」
「一方で私たちは事業機会があるとみている。米国では保険必要額の不足(カバレッジ・ギャップ)が12兆ドルに達し、毎年約3400億~3500億ドルのペースで増えているからだ。さらに(顧客から集めた保険料を運用する)私たちの資産運用ビジネスにフローをもたらしてくれる」
――新型コロナ禍は保険業界にどのような影響を及ぼしましたか。
「多くの人が生命保険の必要性を認識した。21年、米国の個人向け生命保険業界全体の売上高は1983年以来の高水準となり、85年以来となる2ケタ台の伸びを記録した歴史的な1年となった」
「テクノロジーの導入が加速し、顧客が望む方法や時間、場所でサービスを提供できるデジタル環境が整った。AIの活用によって、いくつかのシンプルな生命保険は、契約締結までにかかる時間を22日から22秒に短縮できた。団体保険事業でも、申し込みの80%以上についてAIで瞬時に判断している」
――プルデンシャルにとって日本事業は海外における稼ぎ頭です。ただし人口減で保険市場は縮小が見込まれます。成長余地はありますか。
「独立系代理店や銀行との関係を拡大する。既存先との協業強化に加え、新しい関係の構築にも力を入れる。日本では今のところ必要な事業規模を確保できており、大規模な買収で成長しようとは考えていない。(既存の経営資源を利用して成長を実現する)オーガニックな成長に集中する」
「デジタルを含むさまざまな方法で代理店支援を強化している。たとえば最近、顧客の将来を可視化する独自ツールを発表した。人生の大きなイベントや家計収支をもとにリスクを分析し、必要な保障額を算出する」
――アジアでは韓国と台湾から撤退を決めました。一方、外資規制の多い中国本土では事業を続けています。勝算はありますか。
「アジアや中南米、アフリカでは人口動態の面で追い風が吹く地域に重点を置いている。中国では今年初め、デジタル保険販売プラットフォーム『グロウ・パートナーズ』を導入した。販売パートナーのアプリやサイトに組み込み、(協業相手のサイトを離れることなく)プルデンシャルの医療保険を提供できる」
「南アフリカ共和国で財務アドバイス、退職金投資、富裕層向けサービスを提供するアレクサンダー・フォーブスの少数株主持ち分を取得した。アフリカではすでにガーナとケニアに1件ずつ投資している」
「ブラジルではサードパーティー(第三者)経由の販売拡大で、22年第2四半期の売上高が過去最高になった。現地では20 年前に日本から『ライフプランナー』を通じた販売手法を輸入し、引き続き好調だ。南米最大の電子商取引(EC)企業メルカドリブレと提携し、生命保険や医療保険を提供する」
――保険分野でも多数のフィンテック企業が誕生しています。競争相手として脅威に感じていますか。
「私は先日、シリコンバレーを訪問したばかりだ。20年にプルベンキャピタルというベンチャーキャピタルを立ち上げ、アーリーステージ(創業段階)の企業に投資する3億ドル規模の枠を設けた。投資先との協業を期待している」
「これまで投資対象として2千社以上をみてきた。うち200社に対して企業価値評価を実施し、約20社に出資した。対象は世界に広がり、インドネシアや米国で投資を実行した。投資先にはクレーム対応支援を手がける企業などがある。AIを活用する企業にも出資した」
――19年に買収したオンライン保険代理店アシュアランスIQは減損を迫られました。このM&A(合併・買収)から何を学びましたか。
「すこし話を戻すと、19年当時、買収には3つの理由があった。まず金融サービスを十分に受けられなかった層に、より多くの解決策を提供することだ。まさに私たちの戦略に合致する」
「次にデジタルベースの消費者直販プラットフォームに参入する必要があった。私たちには自前で構築するか、買収で参入時期を早めるという選択肢があり、後者を選んだ。さらに手数料ベースの収益の構成比を高め、市場の感応度を下げる狙いもある。現在、事業の収益性を向上させる取り組みを続けている」
Charles Lowrey
プルデンシャル・ファイナンシャル国際事業の最高執行責任者(COO)などを経て、同社の会長兼CEOに就任。
2001年に入社する前は、JPモルガンで不動産・宿泊施設業界を担当する投資銀行部門のマネージング・ディレクターを務めた。

今回は2008年の金融危機の教訓が「非常に役に立つ」として、大半の金融機関は強固な財務体質により「嵐を乗り切れる」と述べています。
嵐迫る保険業界「危機の教訓生かせ」 米プルデンシャルCEO金融直言
( 日本経済新聞 2022年11月1日 5:00 )
世界の金融業界が波乱への備えを強化している。
米保険大手プルデンシャル・ファイナンシャルのチャールズ・ラウリー最高経営責任者(CEO)は日本経済新聞の取材に対し、市場動向に左右されにくい経営体質に向け、テクノロジー投資を加速する考えを示した。
人工知能(AI)による新たな顧客獲得などを進める。
今回は2008年の金融危機の教訓が「非常に役に立つ」として、大半の金融機関は強固な財務体質により「嵐を乗り切れる」と述べた。
(聞き手は宮本岳則)
――米連邦準備理事会(FRB)の利上げと景気後退懸念が、不安定な金融相場につながっています。米国は不況入りを避けられると考えていますか。
「FRBは景気後退を回避しようとしている。同時に彼らの第一目標はインフレ率を引き下げることであり、それが実現するまで金利を上げ続けるということを明確にした。できる限り景気後退を避けようとするだろうが、それは難しいと言わざるを得ない」
――保険業界に与える影響をどうみていますか。
「金利上昇と(企業の信用リスクに応じて社債の発行金利に上乗せされる)クレジットスプレッドの拡大、株式相場の下落という3つが同時に起きるのは異常だ。もっとも、金利高とスプレッド拡大は、より良い利回りで運用できる環境をもたらし、保険業界にとって、いずれ収益拡大の追い風となる」
――スイスの一部金融機関で経営不安説が浮上しました。
「経済の不確実性と地政学的なリスクは、金融業界に大きなボラティリティー(変動率)を引き起こす。とはいえ大半の企業は嵐を乗り切るのに十分な非常に強い財務状態にある。金融危機の際に学んだ多くの教訓が、非常に役立つだろうし、すでに教訓は生かされている」
――プルデンシャルは嵐をどう乗り切りますか。
「私は2018年末にCEOに就任した際、市況に左右されにくく、高い成長を続けられる企業にしなければならないと認識した。そのためには3つのことをなし遂げなければならない。まず安定した収益基盤を作り上げる。次に事業と商品の構成を見直し、コスト構造を変革する」
「最後に事業への投資と株主への還元のバランスをとることだ。成長事業や市場に投資を続けるほか、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)時に広がったテクノロジーの活用で、新たな顧客体験を提供する。変革の真っ最中だ」
――競合する米保険会社は生命保険事業を外部に切り出したり、縮小したりしています。プルデンシャルも縮小を検討しますか。
「過去10年間続いた低金利の影響で、伝統的な生命保険・年金提供業者は、リスクが低く、資本をあまり使わない戦略にシフトしてきた。国内外の保険会社の多くが、米国の生命保険・年金事業のすべて、または少なくとも一部を売却した」
「一方で私たちは事業機会があるとみている。米国では保険必要額の不足(カバレッジ・ギャップ)が12兆ドルに達し、毎年約3400億~3500億ドルのペースで増えているからだ。さらに(顧客から集めた保険料を運用する)私たちの資産運用ビジネスにフローをもたらしてくれる」
――新型コロナ禍は保険業界にどのような影響を及ぼしましたか。
「多くの人が生命保険の必要性を認識した。21年、米国の個人向け生命保険業界全体の売上高は1983年以来の高水準となり、85年以来となる2ケタ台の伸びを記録した歴史的な1年となった」
「テクノロジーの導入が加速し、顧客が望む方法や時間、場所でサービスを提供できるデジタル環境が整った。AIの活用によって、いくつかのシンプルな生命保険は、契約締結までにかかる時間を22日から22秒に短縮できた。団体保険事業でも、申し込みの80%以上についてAIで瞬時に判断している」
――プルデンシャルにとって日本事業は海外における稼ぎ頭です。ただし人口減で保険市場は縮小が見込まれます。成長余地はありますか。
「独立系代理店や銀行との関係を拡大する。既存先との協業強化に加え、新しい関係の構築にも力を入れる。日本では今のところ必要な事業規模を確保できており、大規模な買収で成長しようとは考えていない。(既存の経営資源を利用して成長を実現する)オーガニックな成長に集中する」
「デジタルを含むさまざまな方法で代理店支援を強化している。たとえば最近、顧客の将来を可視化する独自ツールを発表した。人生の大きなイベントや家計収支をもとにリスクを分析し、必要な保障額を算出する」
――アジアでは韓国と台湾から撤退を決めました。一方、外資規制の多い中国本土では事業を続けています。勝算はありますか。
「アジアや中南米、アフリカでは人口動態の面で追い風が吹く地域に重点を置いている。中国では今年初め、デジタル保険販売プラットフォーム『グロウ・パートナーズ』を導入した。販売パートナーのアプリやサイトに組み込み、(協業相手のサイトを離れることなく)プルデンシャルの医療保険を提供できる」
「南アフリカ共和国で財務アドバイス、退職金投資、富裕層向けサービスを提供するアレクサンダー・フォーブスの少数株主持ち分を取得した。アフリカではすでにガーナとケニアに1件ずつ投資している」
「ブラジルではサードパーティー(第三者)経由の販売拡大で、22年第2四半期の売上高が過去最高になった。現地では20 年前に日本から『ライフプランナー』を通じた販売手法を輸入し、引き続き好調だ。南米最大の電子商取引(EC)企業メルカドリブレと提携し、生命保険や医療保険を提供する」
――保険分野でも多数のフィンテック企業が誕生しています。競争相手として脅威に感じていますか。
「私は先日、シリコンバレーを訪問したばかりだ。20年にプルベンキャピタルというベンチャーキャピタルを立ち上げ、アーリーステージ(創業段階)の企業に投資する3億ドル規模の枠を設けた。投資先との協業を期待している」
「これまで投資対象として2千社以上をみてきた。うち200社に対して企業価値評価を実施し、約20社に出資した。対象は世界に広がり、インドネシアや米国で投資を実行した。投資先にはクレーム対応支援を手がける企業などがある。AIを活用する企業にも出資した」
――19年に買収したオンライン保険代理店アシュアランスIQは減損を迫られました。このM&A(合併・買収)から何を学びましたか。
「すこし話を戻すと、19年当時、買収には3つの理由があった。まず金融サービスを十分に受けられなかった層に、より多くの解決策を提供することだ。まさに私たちの戦略に合致する」
「次にデジタルベースの消費者直販プラットフォームに参入する必要があった。私たちには自前で構築するか、買収で参入時期を早めるという選択肢があり、後者を選んだ。さらに手数料ベースの収益の構成比を高め、市場の感応度を下げる狙いもある。現在、事業の収益性を向上させる取り組みを続けている」
Charles Lowrey
プルデンシャル・ファイナンシャル国際事業の最高執行責任者(COO)などを経て、同社の会長兼CEOに就任。
2001年に入社する前は、JPモルガンで不動産・宿泊施設業界を担当する投資銀行部門のマネージング・ディレクターを務めた。
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