ついに「節税保険」の営業に行政処分 そもそも節税保険とは?今後は使えなくなる?

 金融庁が中小企業経営者向けのいわゆる「節税保険」の不適切な販売に対して、節税保険をめぐって「行き過ぎた節税」を問題視してきた経緯から外資系生命保険のマニュライフ生命保険に対して保険業法に基づく初の行政処分として業務改善命令を出しました。
 これは「節税保険」を扱う生保業界にとっては衝撃の出来事となった一方で節税を考える経営者はこうした状況をどう捉え、どう対処していくべきなのかについて紹介する記事がMONEYIZMに掲載をされていましたのでご紹介をしてみたいと思います。



ついに「節税保険」の営業に行政処分 そもそも節税保険とは?今後は使えなくなる?
( MONEYIZM 公開日:2022/07/29 )
 7月14日、金融庁は、中小企業経営者向けのいわゆる「節税保険」の不適切な販売があったとして、外資系生命保険のマニュライフ生命保険に対し、保険業法に基づく業務改善命令を出しました。
「行き過ぎた節税」が問題視されてきた節税保険をめぐり、初の行政処分が下されたことになります。
同種の保険を扱う生保業界にとって衝撃の出来事ですが、一方で節税を考える経営者は、こうした状況をどう捉え、対処していくべきなのでしょうか?


節税保険とは?
保険料の損金算入で「節税」
 ここで取り上げる「節税保険」とは、「節税(租税回避)を主たる目的として販売される保険商品」(金融庁)のことをいいます。
さまざまな種類のものがあるのですが、当初中小企業経営者の間でブームになったのが、「保険料の支払いにより法人税を抑えた上で高額の解約返戻金が受け取れ、それを役員退職金などに充当すれば課税を回避できる」
(※1)という法人保険でした。
 保険会社が大きな節税効果をうたえたのは、商品によっては保険料を全額損金として処理することが認められるなど、利益を大幅に圧縮することができたからです。
中小企業にとって、経営者の死亡は“一大事”ですから、このような扱いが認められたわけです。

※1:このタイプの保険で可能になるのは、実際には「節税」ではなく「課税の繰り延べ」なのですが、それについては後述します。

バレンタイン・ショック
 しかし、それを逆手に取り、「節税」を強調して販売する行為は、「リスクに備える」という保険本来の目的から逸脱するものだとして、金融庁、国税庁に問題視され、2000年代半ばからたびたび保険料の損金の扱いが見直されてきました。
 そして、2019年2月の税制改正では、「解約返戻率50%以上の商品の課税方法の見直し」など大幅なルールの改定が実行されました。
例えば、節税保険で最も多かった「ピーク時の解約返戻率70%超~85%以下」の定期保険については、損金に算入できる保険料の割合が4割と され、残りは経費として認められなくなったのです。
 その結果、節税の魅力は薄れ、販売停止となる商品が相次ぎました。
この状況は、当時「バレンタイン・ショック」と呼ばれたのですが、それで節税保険が消えたかといえば、そうではありませんでした。
その後もルールの隙間を突くような商品の開発・販売が行われ、行政との“いたちごっこ”の状況は続きました。


業務改善命令が出された理由とは
問題の保険の仕組みは?
 今回、金融庁が業務改善を出したマニュライフ生命の保険は、「低解約返戻金型逓増定期保険」という法人向けの商品です。
節税は、次のような「名義変更プラン」によって可能になりました。
 この商品は、保険期間開始からおおむね5年が経過すると、解約返戻金が大幅にアップする契約になっているのが大きな特徴です。
契約者は、保険会社から、その返戻金アップの直前、契約者の名義を法人から役員個人に変更(資産移転)するよう、説明を受けていました。
 その上で、高額になった返戻金は個人が受け取ります。すると、どうなるのでしょうか?
この場合、受け取った返戻金は、保険会社から個人に支払われるお金、ということになります。その税制上の扱いは、「一時所得」です。
 一時所得は、給与所得と税の算出の仕方が異なり
(※2)、会社から役員報酬などとして受け取るよりも、所得税の納税額が大幅に少なくてすみます。
この時、法人側にもメリットが生まれます。
 名義変更の際には、基本的に法人は役員からその時点の「低額の返戻金」を受け取って、「高額の保険資産」(前払保険料)を売却します。
その結果、帳簿上多額の売却損が発生し、それを法人税の損金に算入することができるのです。
 実は、やはり「租税回避」の目的が明白なこの名義変更プランについては、21年3月の税制改正で“待った”がかけられていました。
解約返戻率が低いままでは譲渡することができなくなり、節税は「不能」になったのです(「ホワイトデー・ショック」と呼ばれます)。
しかし同社は、今度は年金保険を使って同じスキームの保険を考案し、販売に力を入れていました。

※2:一時所得への課税 利益(所得)から特別控除額50万円を差し引き、その価額に1/2を掛けて課税所得(税金がかかる所得)を算出する。

問題視された「悪質性」
 報道によれば、同種の保険商品を活用した「不適切営業」は、他の複数の保険会社でも明らかになっているそうです。
今回マニュライフ生命に業務改善命令が出されたのは、中でも行為の「組織性」「悪質性」が高かったからとされています。
 金融庁は、「マニュライフ生命保険株式会社に対する行政処分について」(7月14日付)で、こう指摘します。
“当社(注:マニュライフ生命)の職員が法人税基本通達改正及び所得税基本通達改正の抜け穴を突いて、不適切な募集と認識しながら、年金保険を使った名義変更プランを考案・推進するといった悪質性が極めて高い事例が認められた。”
 また、名義変更プランそのものについても、次のように「断罪」しています。
“税負担を軽減することを主たる目的とし、法人から個人への資産移転や短期の中途解約を前提とするなど、経済的保障・補償を行うことにより個人生活や企業経営の安定を支えるという保険本来の趣旨を逸脱し、その目的に沿った利用を損ねる行為であり、公共性を有する保険業の意義を阻害する行為である。”


節税保険の前途は?
 ハードルが高まる「保険による節税」
説明したように、マニュライフ生命の行政処分には、営業の「悪質性」が特に高いと判断された、という背景がありました。
しかし、金融庁が明確に「名義変更プランは認めがたい」という姿勢を示している以上、今後新たに同種の保険を販売し、それを使って節税するというのは、困難になりました。
 他方で、中小企業経営者の節税に対するニーズが高いのは事実。
経営環境が順風満帆とは言い難い保険会社の側にも、「売れ筋商品」で稼ぎたいという思いがあります。
実際、名義変更プラン意外にもさまざまなスキームの節税保険が考案されており、今後も発売される可能性はあるでしょう。
 ただ、今回の行政のアクションでも示されたように、節税効果を前面に出した保険商品は、ほぼ間違いなく“規制対象”になっていくものと思われます。
 ちなみに、21年3月の名義変更プランをめぐる「ホワイトデー・ショック」では、1年以上前の19年7月からの契約に遡って規制措置が適用されました。
規制の決定前の契約にも影響が出るリスクがある、ということです。


金融庁と国税庁が連携を強化
 また、行政処分が発出されたのと同じ7月14日、金融庁は「節税(租税回避)を主たる目的として販売される保険商品への対応における国税庁との更なる連携強化について」という報道向けのリリースを発表しました。
 記述の通り、節税保険にブレーキをかけるため、金融庁と国税庁が本格的にタッグを組む、という内容です。
節税保険も金融庁の認可を得ていますので、商品自体は違法ではありません。
認可が認められたのは、従来金融庁が「節税効果の有無」を判断基準にしてこなかったからです。
 それが、結果的に節税保険の蔓延を招いたことから、金融庁による商品審査・販売方法などのモニタリングに関して、国税庁が関与する仕組みに改められます。
商品認可のハードルが上がるのは、間違いありません


「保険による節税」の留意点
 では、節税保険をめぐるこうした流れを踏まえて、中小企業経営者は「保険による節税」についてどう考え、行動すべきなのでしょうか?「すでに節税保険に加入している経営者」、「保険加入を検討している経営者」に分けて述べてみたいと思います。

節税にならない!?節税保険
 前者に関しては、注意が必要なのは、最初に説明した「保険料を損金処理できる」節税保険を契約している人です。
場合によっては、速やかに返戻金に課税される法人税対策を考える必要があるかもしれません。
 実は、節税保険といいつつ、このタイプの商品には節税効果はほとんどありません。
確かに、支払う保険料は「損金」に計上できますが、解約して受け取る返戻金は「益金」となり、法人税の課税対象になるからです。
節税ではなく、「課税の繰り延べ」に過ぎないというのが実態でした。
返戻金を役員退職金などに充てて相殺すれば、課税はされません。
 ただし、この場合にも、退職金で発生するはずだった「損金」が消えてしまいますから、結局節税につながらないケースもでてきます。
退職金や設備投資などの発生を見込んで、課税繰り延べを目的に計画的に加入したような場合には、メリットを享受したといってもいいでしょう。
 問題は、そうした展望もなく、「節税効果」に誘われて契約したケースです。
解約返戻率のピークは“契約から5~10年”とされていますので、19年の税制改正前に駆け込みで加入したような人も含めて、「返戻率が高い時点で解約したいが、そうすると高額の税が課せられる」という課題に直面します。
 契約しているのが仮に解約返戻率80%の商品ならば、節税効果がゼロに戻った上に、20%は掛け捨てたも同然…ということになってしまいます。
 では、今回の事態を受けて、これからの法人保険はどう考え、どう活用すべきか、保険の専門家であるファイナンシャルプランナーの株式会社ファイネスト代表取締役 堀元昭さんに見解を伺いました。


 「これまでの税制改正は、商品毎に経理処理を定める方法でした。そのため商品を変えて節税効果を訴求するいたちごっこが可能でした。しかし、2019年2月の税制改正はピーク時返戻率による損金算入割合を明示しました。これにより今後は商品を変えて節税効果を訴求することは出来なくなりました。
 現行のルールで、節税効果のみを訴求して商品を販売する事は非常に難しくなったと言えます。やはり、保険本来の機能である保障や貯蓄性などの魅力と必要性を丁寧に説明し、節税効果が無くてもご納得いただける保険販売を行う以外にないと考えています。保険の持つ保障機能や貯蓄機能は、事業経営において非常に重要なファクターであることに変わりはありません。これまでの節税のみに偏った販売手法を改める良い機会ではないかと考えています。
 また、既に加入している節税保険についても、その受け皿と出来る代替商品はありません。保険以外の節税商品もことごとく規制され、真に打つ手なしの状況です。貯まった解約返戻金をいかに有効に事業に活用するかを考える方が得策だと思っています。」

 既に契約済の保険の扱いに迷っている場合や新規加入の検討がある場合には、早めに法人向けの保険に詳しい専門家に相談することをお勧めします。


「節税ありき」は再考を
 述べてきたように、「租税回避」が疑われるような保険の販売には、歯止めがかかる状況にあります。
加入した場合には、節税と引き換えに相応のリスクが避けられません。
 そもそも法人保険は、企業が直面するさまざまなリスクに備えたり、福利厚生を整備したりするためのものです。
これから保険加入を考える場合には、あくまでもそうした本来の目的に沿って活用する、という視点に立って検討すべきでしょう。
節税のツールと捉える経営判断は、再考の余地があるかもしれません。
節税保険ではありませんが、たとえば次のような「節税しながら福利厚生の充実などに役立つ保険」もあります。


法人向け養老保険(福利厚生プラン)
 従業員を被保険者として法人が契約する生命保険です。
満期までに被保険者が死亡した場合は、従業員の遺族に死亡保険金が支払われ、満期まで生存していた場合には、法人が満期保険金を受け取ります。
保険料の1/2を福利厚生費として損金にすることができます。


法人契約の個人年金保険
 個人年金を受け取ることができる法人保険です。保険料については1/10しか損金に計上できませんが、社会保険料を削減できるといったメリットがあります。
ただし、全従業員が加入することが条件です。


まとめ
 節税保険の不適切営業に対し、初めての行政処分が行われました。
今後、節税を目的とした保険商品の活用は難しくなりそうです。
 法人保険に関しては、節税ではなく補償内容などを検討した上で、自社が必要とするものを選ぶようにしましょう。
すでに節税保険に加入していて、不明点があるような場合には、税や法人保険に詳しい専門家に相談することをお勧めします。


【今回お話を伺った専門家】
 株式会社ファイネスト 代表取締役/ファイナンシャルプランナー:堀 元昭 さん
1997年設立。保険のプランニングから出口戦略まで立案し、クライアントは法人1,000社、個人1,300人超。
自身でも保険と税務を駆使して飲食業など多角経営に成功し、年商は25億を超える。


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